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感情のない世界 // 更新される景色
第2章 は
それから空になった皿を洗った二人は、何も置かれていない食卓で改めて向かい合った。
僕と君はこうして時々、僕の記憶のデリートを行う。
記憶、思い出──君がそう呼ぶ " これ " は、僕にとっての " 情報 " だ。
毎日、毎日、僕の頭にはあらゆる情報が蓄積される。
見た物の形や色、数メートル先で交わされる他人の会話、虫の羽音の周波数、肌にあたる空気の匂いや湿度まで。身の回りで起こる事象の全てがなだれ込む。
そして多すぎる情報が僕の頭を圧迫しすぎると、動きや判断に支障を与えるんだ。
僕も万能じゃあない。
人間はわざわざデリートを行わなくても、意思とは無関係に忘れていくものらしいが、僕はそうもいかなかった。
だから、消す。
消すには君の同意が必要だった。