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私の欠けているところ
第10章 逃げ回る時を追いかけたんだけど


その夜俺は
ほとんど眠れず

次の日の朝早く
時の部屋の前まで来ていた


『コンコン』


仕事に向かう前
コンビニで調達した食料を
時に渡すためと
時が仕事に行ったりしないように
説得するためだ


「…はい…」


ノックをすると
か細い声が
奥の方から声が聞こえ
そして
チェーンをかけたままドアが少し開いた


「俺、おはよう」


「…お、おはよう…」


隙間から見える時は
やっぱり仕事に行くつもりなのか
化粧をしていた


「仕事、行くつもりじゃないよな?」


「……」


「無理だって」


「……」


「ちょっと、開けて。
食べるもん買ってきたから。
大丈夫、渡すだけ」


「…うん」


チェーンを外して
時がドアを開けると
俺は少し強引に玄関の中まで入って
ドアを閉めた


「あ、ちょっと…」


時は少し
焦っていたけど
もう中に入ってしまった俺を
押し出すなんてできないと観念したのか

一歩下がって
少し…うつむいた


「今日は休めよ。
そしたら明日は土曜日だから
会社休みだろ?
3日休んで身体良くした方がいい」


「でも…」


どう見ても
時はまだ顔色が悪い
絶対電車で立ってるなんて無理だろう

それなのになんで
そうまでして
会社に行きたいのか
俺には不思議でたまらなかった


「行ったほうが
迷惑かけるんじゃねーの?」


「……わかってる」


え?


「わかってるよ、そんなこと!」


時は
突然大きな声を出して
両手で顔を覆った


「わかってんなら
じゃあ、ちゃんと休んで…」



「それでも行きたいの!
梶谷くんには
関係ないでしょ!

お願いだから帰って!

お願いっ…

お願いだから…っ…



もう…っうっ…

……ほっといて…」





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