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私の欠けているところ
第5章 その『嘘』に俺は追い詰められ

「やっぱり送るよ
いい?」


「………」


深海さんから返事はなかったけど
俺は引き下がることはしなかった


「ケガ、してない?
タクシー拾おうか?」


「あ、ありがと
でも近いのここから。
歩けるから…大丈夫。
ケガなんてしてないから…」


「じゃあゆっくり歩こう。
どっち?」







「……こっち…」



「わかった」


ようやく深海さんは
部屋まで送ることを
許してくれた


それから俺は
できるだけ深海さんに寄り添い
肩を抱きたい気持ちを
必死で我慢しながら歩いていた

ほんとは
支えてあげたかったんだ
何かあった深海さんを

でも
もし本当に
襲われたりしたのなら
俺がゲイだとしても
男に何かされるなんて
恐怖かもしれない

結局俺は
隣を歩くこと以外
何もできないままだった



「…ごめんね…」


何かを隠そうとしてる
深海さん


「いいんだよ、ほんとに。
俺こそ押しかけて
ごめん」


レイプされたんじゃないかと
疑う俺


俺達の間には
いつもとは違う空気が
流れていた


そして二人は
深海さんの住むアパートに
着いてしまったんだ


「その…白いアパートなの」


「うん」


「送ってくれて、ありがとう」


「時ちゃん」


「ん?」





「なんか
悲しいこと…あった?」








「ううん


…ないよ」








「じゃあ…

俺が待ってた間に
何があったのか
聞いてもいい?



心配で
このままじゃ帰れないよ」




「……」



深海さんは
少しうつむいて
黙り込んでしまった


「怒ってるんじゃない

時ちゃんを

守りたいだけなんだ」



そう

俺は
どう見ても悲しそうで
寂しそうで
今にも泣きそうな深海さんを
守ってあげたかったんだ



すると
しばらく黙っていた深海さんが

「二階なの…203号室」

そう言って
階段を上がりはじめた


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