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第3章 はみ出した口紅
ーーー 月曜日。

今日は学校だ。

「好〜早く!遅刻しちゃうわよ」

母がキッチンから私を呼んだ。

「はぁい」

大きな声で返事をする。

「えーっ!もう8時過ぎてるのっ。大変っ」

私は時計を見てひとりごと。

慌てて制服に着替えようとしたが、足がすくんで動かない。


思い出したくも無いのに、あの時の事がフラッシュバック。何度も何度も波のように押し寄せてくる。


ドキドキしだした胸を掴んで慌ててしゃがみこんだ。


――― カチカチ。

壁掛け時計の秒針の音が大きく聞こえ始めた。耳元で拍動し始める血流。手足が痺れ始めて、頭がぼーっとし始めた。

…私…死んじゃうのかな。


ふとそんなことが思い浮かんだ。でも、その死の恐怖よりも、汚れてしまった自分への嫌悪感が強かった。

「好ー!朝ご飯食べる時間無くなっちゃうわよ!」


母が再び私に声を掛けてきた。ベッドに捕まり、なんとかその場に立ちあがった。


…ママに心配かけちゃう。


でも慌てれば慌てるほど膝の力が抜けた様にガクガクとした。

「ほら好っ。遅刻しちゃ…」

母が、部屋のドアを開けた時だった。私の足に温かいものが伝った。

「好っ!どうしたの顔が…真っ青…よ」

綺麗に磨かれた冷たい床にじわじわと広がる水溜まり。

「…!!」

母は私の足元を見ると、何も言わずにシャワーへ連れて行ってくれた。

「今日は学校休みなさい。ママが先生に伝えておくから」

シャワーから出ると母は既に私の部屋の床掃除が終わらせ、リビングに居た。


「ええ…先生すみません。今日は具合が悪いので…はい…宜しくお願いいたします」

母は丁度電話をしてた。ちらりとこちらを見たが電話を続けている。


――― パタン。


私はクリーナーの香りが残る部屋へと戻った。



無遅刻無欠席の私が初めて学校を休んだ日…そして学校へ行かなくなった日。
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