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第1章 抱かれる女
「ただいま〜」

学校から帰ると、母が居なかった。母が作った人形がテレビのCMに使われるとかで、その納期が迫って居たけれど、その企業担当者がちょっと癖ものらしい。指示をころころと変えるので、母は苦労しているようだった。

「好ちゃん。お帰り!」

母の代わりに家にいたのは、小牧さんだった。

「ママは?」

「お母さんは,担当者さんとアトリエで打ち合わせしてるよ」

「えーまた?」

「うん。」

「これで何回目?もうママも辞めちゃえば良いのに」

「ははは。俺も正直そう思ってるよ。だけど、先生は妥協をしない人だからね」

「ママが妥協しないお陰で、小牧さんがブラック企業以上に酷使されてるけどね」

私は冷蔵庫から牛乳を出してコップに注ぎ、息をつかずに一気に飲み干した。

「ははは。そんな事は無いよ。俺は好きで先生の元に通ってるんだ」

小牧さんは、親戚のお兄ちゃんの様な感じだった。私が唯一、気楽に話せる人と言っても過言じゃ無い。

「小牧さんは、彼女とか居るの?」

小牧さんは、母の資料を取りに来たらしい。私と話をしながら、母の部屋に入り、本やファイルなどを布袋の中に入れた。

「今は居ないよ」

…って事は昔は居たのか。

「へー意外」

「俺そんなにモテないよ」

小牧さんは、少し照れた。

「いや…違くて。彼女が昔、居た事が意外だったの」

私は、キッチンでお湯を沸かした。

「好ちゃん…酷いなぁ」

「だって、小牧さんは大人しいし女の子とかに声を掛けたり出来なさそうだもん」

「確かにね。俺から話しかけるのはちょっと苦手かも」

「お茶か紅茶飲む?シュークリームもあるよ?」

私は小腹が空いたので、塾へ行く前に少し何か食べたかった。

「あ…っと」

小牧さんはスマホで時間を確認した。

「すぐ戻んなきゃ駄目?」

「んー。じゃぁ紅茶で!俺も実はちょっと腹減ってたの」




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