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VERTEX
第14章 相手がいない…



涼ちゃんの気持ちがわかるから会長さんを恨みたくなってしまう。


「霧島さんしかいないんだから…、霧島さんじゃダメなんですか?」


我儘なのはわかっている。

霧島さんだって減量が始まって辛い時期なのだから…。


「あそこまでやらなくとも涼二なら勝てるんだよ。」


会長さんが私にまでため息をついた。

勝てる?

そんな保証はないと会長さんが言っていたのに…。

練習をしない奴や油断をする奴は必ず負けると涼ちゃんに教えたのが会長さんだ。

霧島さんが負ける姿を見た時に会長さんが涼ちゃんにそう言ったはずなのに…。

今更、練習相手が居ないからと練習を止めろとか涼ちゃんに言える訳がない。


「ミットで誤魔化すしかないですよ。」


私が泣きそうな顔をするから篠原さんが私の肩を叩いて会長さんに言う。

スパーリングのようにはいかないけれども篠原さんを相手にミット打ちをして戦う感覚を身体に染み込ませるしかないと篠原さんが提案をしてくれる。


「それで篠原が体力的にもつのならな。」


会長さんがしぶしぶと承諾をした。

涼ちゃんのパワーに篠原さんも限界を迎えているのだと思った。

VERTEX側と相談をして涼ちゃんの専属トレーナーをジムで雇う事を考えると会長さんが言う。

外国人選手の少ない涼ちゃんの階級で外国人選手並のトレーナーが必要になっている。

私に出来る事はボロボロの涼ちゃんを家に連れて帰るだけ…。


「そんなに練習が必要なの?」

「落ち着かないんだ…。やたらと興奮をしてて自分が抑えられない感覚がする。」

「無茶は嫌よ。」

「無茶じゃない。多分、これが本当の俺なんだ…。」


涼ちゃんを遠くに感じた。

優しいだけの涼ちゃんがファイターになると人が変わってしまう。

行かないで…。

また、それが言えないまま涼ちゃんをリングに送り出していた。


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