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第15章 迷子…



「お前、RYOJIさんの幼なじみでRYOJIさんの事、全部知ってんだろ?なら…、稲川さんの事をお前が知らないって事は所詮は噂だけって事だよ。」


勇気君が固まった私の手を握って客席に向かって歩き出す。

確かに私は稲川さんを知らない。

だけど彼女は私を知っていた。

私が知らない涼ちゃんの人間関係が存在する。

それだけでも充分に私にはショックな事になる。

涼ちゃんしか知らない私…。

その涼ちゃんの事すら知らない私…。

方向音痴の私がどんどん迷子になって行く。


「ほら、客席…。」


勇気君が私の手を離す。

ありがとうを言うつもりが言えなかった。

勇気君は黙ったまま立ち去った。

ぼんやりとしたまま客席に戻った。


「涼二君はどうだった?」


笑顔の静香さんに無理に笑顔を作っていた。

霧島さんの事は静香さんに聞けない。


「インタビューの仕事中でした。」

「会えなかったの?」

「いえ、でも…、話は試合が終わってからって怒られちゃった。」

「そういう時ってあるよね。恭ちゃんも試合前の一週間はろくに口を聞いてくれない時があるもの…。」

「そうなんですか?」

「試合の事以外は考えたくないみたい。私の存在すら忘れたみたいに頭で何度も次の試合のシュミレーションを繰り返すの。」

「寂しくないですか?」

「慣れちゃうと当たり前になるわよ。その分、試合が終われば誰よりも優しい人に戻ってくれるもの。」


静香さんの言葉の意味が私にはまだわからない。

涼ちゃんが遠いと感じるだけで私には耐えられないとか考える。

涼ちゃんが頂点になる。

もう私の涼ちゃんじゃなくなるかもしれない。

その不安でいっぱいのまま気付けば涼ちゃんの試合を迎えていた。


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