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夢の欠片(くすくす姫サイドストーリー)
第1章 前編
月日は流れ、男が女と最初に出会ってから、一年近くが経ちました。

男の友人の結婚式は華々しく執り行われ、沢山の人々に祝われました。奥方は程なく身籠もり、出産を待つばかりです。
家庭を持った友人は、男と私的に会うことがますます減りましたが、仕事ではますますよく会うようになりました。
男が未だに独り身で浮いた噂も無い事を気にかけて、時折、奥方の伝手で相手を紹介しようかと言って来ることも有りました。しかし男は、その都度苦笑して首を振るだけでした。

「家庭を作って子を持つ積もりなら、早く結婚した方が良いぞ?男は幾つになっても子を持てるとは言え、子が小さい内に万が一の事が有ったら、遺される奥方が気の毒だ」

自分に子が産まれる事に浮かれている友人は、そんな事まで言って来る事さえ有りましたが、男は「そうだな」と、同意でも反論でも無く受け流し、話はそこで終わっていました。


女との逢瀬は、誰にも覚られる事なく密かに続いておりました。
続けられているのには、間に入っている侍女の聡明さが、大きく関わっておりました。
時も頻度も場所も、発覚しない事を最優先にして計画と実行を行い、決して無理をしませんでした。予定していた日であっても、少しでも何か気になる事が有れば、即座に中止しておりました。

「貴女の侍女は、何者ですか?」
「私の味方ですわ」

短い逢瀬の中、慌ただしい一度目の交わりの余韻に浸りながら、二人はそんな話をした事が有りました。
「でも、どうして?何か変わった振る舞いでも致しまして?」
「いや…余りにも、優秀なので…」
男は、今回の前に予定していた逢瀬が、侍女によって寸前になってから中止と告げられた事を思い出しておりました。

「あの周到さと冷静さには、舌を巻く。この前など、『あんたは馬鹿ですか?今一度だけの事と、この先ずっと何度もの事を天秤に掛けて、今を取るって言うんですか?これ以上駄々をこねる様なら、今後のお手伝いはお断り致します』と、叱られました。出来れば、うちで働いて欲しい位です」
男が大袈裟にぼやくと、女はくすくす笑って、まだ火照っている素肌を男に擦り寄せて来ました。

「この前の、急に会えなくなった時ですわね?私も、似たような感じで叱られましたわ」
「貴女も?」
腕の中に身を寄せてきた女の髪に頬擦りと口づけをしながら、男は女に囁きました。
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