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夢の欠片(くすくす姫サイドストーリー)
第3章 後編
昔、この地に、今は一大産業となった果物園の基礎を築いた果物園主がおりました。
園主は生涯妻を娶らず子も持たなかったので、養子を取って跡継ぎとしました。

養子にした子は、この地の出身では有りませんでした。ここから北に離れた土地で、その地には不似合いなほど品の良い母親と使用人とでひっそりと暮らしていましたが、子どもが五つになった頃から母親が病を患い、しばらく経って亡くなったのです。
子どもは、母親が亡くなった後は、残された使用人と暮らしておりました。母親が亡くなって半年あまりが経った頃、子どもは母親と暮らした地から、離れた土地の果物園に連れて行かれました。そこでしばらく暮らした後に、そこからも少し離れたこの地の、跡継ぎの無い果物園に引き取られることになったのです。

子どもは利発な子で、愛情深い母親に育てられたので父親の無い事を気にしたことはありませんでしたが、母親が一人で淋しくはないのかと、大きくなるにつれて気になるようになりました。
母親や使用人以外の大人と会うことはほとんど無かったので他所の家族のことはあまり知らなかったのですが、お話や絵本の中の家族には、父親と母親の二親が居ることが多かったからです。

「おかあさん、ひとりでさみしくないの?」
「一人じゃないわ、あなたと二人よ?」
「しあわせ?」
「ええ。とーっても、幸せよ!」
そう答える時の母親はとても嬉しそうで輝く程に美しく、絵本の中の王子様と結ばれたお姫様のようだと、子どもは思っておりました。




子どもが養子となってしばらくが過ぎ、養父となった園主に少し慣れた頃。
ある夕方、園主と果物園を歩いている時に、子どもはふと母に昔聞いた問いを思い出しました。そして、養父にその時と同じ事を聞きました。

「マイスター、一人で寂しくないですか?」
彼の養父も母親と同じく、連れ合いは居なかったのです。
聞かれた養父は、変な顔をしました。
「あ?俺ぁ一人じゃねぇだろうが。お前も居るし、働いてる奴らも居るだろ」
聞きたかったのはそういう事では無かったようにも思いましたが、じゃあどういう事なのかと考えてみても、子どもにはよく分かりませんでした。分からないけどそういうものなのかと思った子どもは、質問を変えました。
「幸せですか?」
「お前、小難しいことを聞きやがるなあ」
園主は立ち止まって、腕組みをしました。
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