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竜を継ぐ者~黄の刻印の章~(世界はエッチと愛で救われる)
第12章 いつもと少し違う朝の日常
「どうしたの真吾、その頬っぺた」

 チラッと視線を向けると傍に、母の|滝川美土里《たきがわみどり》が立っていた。
 美土里は、真吾の片側だけ赤い頬に目を向けながら、食卓に目玉焼きやらソーセージやら乗った皿を置いた。
 真吾はやや憮然とした表情で美土里に返事する。

「何でもない。触れないで……」

 どことなく幼気で38歳とは思えない愛々しい美貌に呆れた笑みを浮かべて、美土里は肩をひょいと上げた。
 キッチンへと戻る美土里と入れ替わりで、美里がテーブルに着く。
 ダンディイケメンの父親に似た端整な目鼻立ちを、不機嫌そうに顰めさせて一瞬だけ真吾を睨みつけた。

「まだ根に持っているのか?」

 声を掛けると、美里は不機嫌な顔をチラリと向けてプイとそっぽを向く。
 まだまだ風呂場での事故を根に持ち、不機嫌全開だ。
 しかしあれは事故だし、こっちだってビンタ食をらった――そろそろ許してはくれないだろうか。

「なあ――謝っただろ~?わざとじゃないんだし、そろそろ機嫌直せよ」

 朝から気まずい雰囲気に嫌気が差して、真吾は不機嫌な横顔にコソコソと囁いた。小声なのはほんの少し、ジロジロ見てしまった後ろめたさからである。

「だって――絶対に見たもん……」

 いつもは素直な奴なのに、今朝はなかなかに手強い。
 まだ許す気なんてないんだからというような、強気な顰めっ面。頬を少し赤らめているのは、恥らいが僅かながらあるという事なのか。
 兄を相手にそこまで気にする事もないと思うのだが……。

「見てない見てない」

 こんがりと焼かれたトーストに歯を立てながら、真吾は面倒そうに答えた。
 鬱憤をぶつけるように、美里も自分のトーストにジャムを乱暴に塗ったくる。
 乱暴すぎて皿の周囲にジャムが飛び散って、非常に汚らしい。乱暴なのは幼少期からずっと一緒にいる幼馴染の影響か?
 もう少し淑やかにできないのか……妹よ。

「見た!」
「見てない」
「ジロジロ見てたもん!」
「発育途上の尻なんて見ても何も思わないから安心しろ」
「やっぱり見たんじゃない!」

 売り言葉に買い言葉な口喧嘩が唐突に勃発してしまった。
 こうなる予定はまるでなかったのに、口が滑ってしまったので収めようがない。
 その喧嘩の仲裁は、いつも通り外野からやってきた。
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