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第1章 憧れ美人上司

「ねえ、こんな資料で使い物になると思ってる？」

　深みのあるアルトの声がオフィスに響く。
　落ち着いた口調なのに、隠しようのないいらだちが伝わってきた。

「リサーチ会社の市場調査報告書のままじゃない。
　何度も言ってるでしょう。
　ブランドビジョンに合わせて、問題点を明確にするのがあなたの仕事だって」

　古森啓太《こもりけいた》は課長のデスクの前でうなだれる。

　ブラインドを半分おろした窓からは、明るい初夏の日差しが射し込んでいたが、啓太の心は暗く沈んだ。

　時間は午後の一時半。

　遅めの昼食をすませてきた啓太を待っていたのは、外回りから戻った女上司、貴野亜沙子《たかのあさこ》のきびしい叱責だった。