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身代わりの夜
第5章 同僚の恋人と
 バーボンのオンザロックをもう一杯たのむ。

「バーテンさん、こっちにもお願い」

 その声に、隣りに女性がいるのに気づいた。
 彼女もひとり客のようだ。
 カクテルグラスを傾ける整った横顔に見覚えがあった。

 目尻に光るものを見たような気がして、はっとする。
 蘭のように煌びやかな美貌が、ひどくさびしそうだった。

 声を掛けるべきか悩んでいると、その女性がこちらを向く。

 眼が合った。

「あら。ええっと……」

「古森啓太です。たしか加納さんですよね」

 名前を思い出せないでいるようなので、啓太の方から答えた。

 秘書課の加納梨華だった。
 山野辺の恋人だ。前に一度、紹介されたことがあった。

 梨華は口元をほころばせて、

「こんなところで、奇遇ね。一緒に飲もうか」

「は、はい」

 二人してテーブル席に移った。
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