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滲む墨痕
第3章 雪泥鴻爪

 取り残された潤は小さく息を吐き、橙色の外灯にぼんやりと照らされる玄関先へ向かった。
 雪は止むことなく降りつづけている。手のひらをこすり合せながらしばらく待つと、向こう側でかちゃかちゃと音が鳴り、戸が開けられた。
 照明がつけられた玄関から顔を出した藤田に促され、潤は寒さを振り払うような気分で中に入った。それを見透かしたのか、藤田はふと表情を柔らかく崩す。

「寒いねえ」

 まるで子供に話しかけるような口調に戸惑いつつ、潤は頷いた。自分の頬が林檎のように赤く染まっていないだろうかと気にしながら。

 昨日と同じ部屋に通された。藤田は隅にあるヒーターのスイッチを入れると、「待っていて」と言い残し部屋を出ていく。
 潤は濡れてしまったベージュのチェスターコートを脱ぎ、コートの中で斜めがけしていたミニショルダーバッグを肩から降ろした。

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