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滲む墨痕
第3章 雪泥鴻爪
藤田は続きを口にすることを躊躇しているようだった。核心に触れたら、その熱に溶かされそこから雪崩のように崩壊していくのが目に見えているからだ。
言葉などなんの意味があろうか、と潤は思った。そのたくましい腕に捕らえられ、硬い胸板に覆われ、欲情を湧き起こされて、すでに引き返せないところまで連れてこられてしまったというのに。
「ずるいです」
潤が消え入りそうな涙声で小さく呟けば、藤田は熱い息を吐き出す。
「ごめん……」
心の声をそのまま外に出したような切なげな囁きは、なにもかも吹き飛ばしてしまうほどの威力があった。
潤は、自身の華奢な身体を隙間なく抱きしめて離さない男の腕に身を委ね、引き寄せられるまま、ふっと後ろに力を抜いた。
「嫌だなんて、言えません。……言いません」