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第3章 雪泥鴻爪

　視界の端にちらりと映った高い鼻に気づいた潤は、ひかえめに首をひねり視線をやった。
　奥二重だが力のあるアーモンド型の目が、欲望と困惑を孕んだ視線を返してくる。はじめての距離で見るその瞳は、宇宙の果てまで繋がっていそうなほどに思慮深い色をしている。その瞳に見つめられていることに耐えられず、潤は思わず目を伏せた。

　藤田が、腕の力をゆるめた。かと思えば潤の頬に手をやり、そっと顔を引き寄せる。形のよい唇が薄くひらいた。
　それが重なる寸前、藤田はなにかを思い出したように動きを止めた。まぶたを半分閉じて惚けた表情をする潤からわずかに身を引いた彼は、迷いを振り切るようにもう一度唇を寄せ、ふたたび寸前でためらう。

「ああ……」

　だがもう悩むのも限界だと言わんばかりの、ため息とも喘ぎともとれる声を最後に発し、彼は薄目で潤を見つめながら顔を傾けた。

「……っ」

　色情が理性を上回ったその瞬間は、潤には永遠に続く夢のように思えた。酸素不足に陥りそうだった。