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滲む墨痕
第4章 一日千秋

 こたつに戻り、座布団の上に正座して背筋を伸ばす。バッグの中から筆巻、下敷き、半紙入りのファイルを取り出し、道具一式を配置すると、水滴で硯に水を垂らし、墨を当てて磨りはじめる。しがらみを忘れ、無心になれる時間だ。

 三週間前――松の内が明けた八日に、美代子が遅いクリスマスプレゼントとして贈ってくれた書道セット。一見書道バッグには見えないものをわざわざ選んでくれたのだ。昼休み中にこっそり訪ねてきた彼女は、「若旦那様には内緒よ」と爽やかに微笑んだのだった。
 以来、潤は毎日時間を見つけては一人黙々と書道に勤(いそ)しんでいる。

 水と墨が混ざり合い、液体の濃度が増し、高貴で清々しい香りがふっと立ち上がる。潤はいったん墨を置いて水滴を手に取り、陸に水を数滴落とすとふたたび墨を磨りつづけた。

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