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滲む墨痕
第4章 一日千秋

 黒スーツに藍の法被を羽織った姿がそこに現れる。

「じゅ、ん?」

 誠二郎の冷静な眼差しが、きつく閉じた素脚に落とされた。その静かな視線は太ももへと上り、付け根の中心に注がれる。あられもない妻の姿を目の当たりにして一瞬大きくひらかれたその目は、次の瞬間には凍てついたように動かなくなった。

「なんだ……ずいぶんと大胆だね」

 まるでその低い声に醜態を咎められているようで、背中にひやりとしたものが走る。潤はそばに脱ぎ捨ててあるジーンズを震える手で掴むと、膝を曲げて縮こまる脚を隠そうとした。
 瞬間、わずかに眉間に皺を寄せた誠二郎がみしみしと畳を鳴らし足早に歩み寄ってきた。彼は羞恥と恐怖におののく潤の手からジーンズを奪い取り、乱暴に投げ落とした。
 ちょうどその下にあった携帯電話が覆い隠される形になったが、誠二郎はそれが通話中になっていることに気づいていないのか、それとも携帯電話など見えてすらいないのか、その視線は変わらずただ一点を目指している。

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