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滲む墨痕
第4章 一日千秋
秘部から目を上げた誠二郎が、舐めるように視線を滑らせ目を合わせてくる。
潤は、押し黙った。誠二郎のことを考えていたと嘘をついてしまえばよい。しかし、繋がったままであろう電話の向こうに潜む藤田の存在がそれを阻む。彼には聞かれたくない、と祈るような気持ちで夫の無感情な瞳を見返す。
「答えられないということは、俺以外の誰かってことだよな」
「……っ」
「誰だろうね」
わずかに口元を歪ませてそう言った誠二郎は、不意に視界の端になにかを捉えたのか視線を横にそらした。こたつテーブルの上にある書道用具に気づいたのだ。
「……やっぱりこいつか」
小さな呟きとともにふたたび目が合った直後、誠二郎の手のひらが目前に迫った。思わず顔をそらすと、骨ばった指に首筋をなぞられた。その冷たさに、ひっ、と息を吸うと、その指は顎を撫で上げ、震える唇を割って口内に侵入してきた。