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滲む墨痕
第4章 一日千秋
胸の間を滑りおりた筆は、へその穴を塗りつぶすようにぐるりと一周し、また黒い線をなぞって胸に戻る。するとふたたび同じ道を通って腹部に下がり、今度は腰の曲線を確かめるように脇腹を撫で上げる。
とっさに抵抗しようと腕を揺らすも、いまだ頭上で両手首を拘束する誠二郎の片手にきつく押し込まれ、その痛みに動きを阻まれた。眉をひそめた潤を嘲笑うように、墨に濡れた筆は胸横をなめらかに這い上がり、露わにされた脇を舐めまわす。
「うっ……」
小さく呻き声を漏らすと、満足げな表情を浮かべた誠二郎が薄い唇をおもむろにひらいた。
「さっきの質問だ。誰のことを考えながら一人でしていた」
「……誰も、考えてませっ……」
「へえ。誰のことも……」
その答えが不服だったのか、誠二郎はひくりと口の端を歪めた。