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滲む墨痕
第4章 一日千秋

 あの頃は、本当に夢中だった。逢瀬を重ねるごとに秘密の行為は濃厚になり、湿度を増した。
 はち切れそうな分身を自分の手以外で最初に慰めたのは、美代子の口だった。柔らかな唇、這いまわる濡れた舌に弄ばれ、あたたかな口内に吸い込まれた瞬間、はじめて得る感覚に誠二郎は震えあがった。時には、四つん這いで後ろを舐めまわされながら分身を扱かれ、狼狽と羞恥と快感に情けない声で喘いだ。
 しかし、美代子は最後の一線を越えることを許さなかった。彼女の中に自身を沈めたくてたまらない誠二郎を優しく宥め、ほとばしる欲をその口で受け止めた。

 不意に右脇の下にハンカチが入り込み、誠二郎はとっさに腹に力を入れた。脇腹を探る思わせぶりな拭き方が静寂を刺激し、淫靡な空気を呼び込む。
 背後にあるのは過去の思い出ではなく、現実だ。長年遠ざけてきたそれが今、ふたたび手の届くところにある。振り向けばすぐ腕の中に閉じ込めてしまえるほど近くに。

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