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滲む墨痕
第4章 一日千秋

 記憶の激流を押しとどめ、微動だにせず無言を貫いていると、美代子が黙って背中にもたれかかってきた。脇腹から前に回された手は、ハンカチ越しに腹筋を這い、軽く押しつけながら下腹に向かう。それはもはや愛撫以外のなにものでもなく、誠二郎は醜悪な欲情に駆られた。
 腹の奥が一瞬にして滾り、吐き出された血液が分身の先端まで流れ込む。膨張し、硬さを取り戻しはじめたそれがむくりと顔を上げるのがわかる。
 同時に、怒りが込み上げてきた。こんなふうにして昔から振り回されてきたのだ。底なしの性欲を持て余した年上の女に。その幻影に。

「……俺で遊ぶのか。昔みたいに」

 誠二郎は低く呟き、動きを止めた美代子の右手を掴んでハンカチを奪った。桶に投げ入れると、ぴちゃっと音がして湯が跳ねこぼれた。

 互いに想い合っていると、十六年前はそう信じて疑わなかった。そう思っているのが自分だけだと思い知ったときの絶望感は、誰にもわかるまい。

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