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滲む墨痕
第3章 雪泥鴻爪

◇◇◇

「潤ちゃん、やっぱり今日は肌つやがいいみたい」

 更衣室で着付けを済ませ、夕方からの勤務に備えていたとき、不意に美代子が言った。「昨日いいことでもあったのかしら」と意味ありげな視線をよこす。

「一日お休みいただいて、ゆっくりできたからかなあ……」

 潤がぼんやりとした返答をすると、美代子はすかさず深く突っ込んでくる。

「例の書道教室に行ったのよね。気分転換できた?」
「は、はい」
「どんな感じだったの」

 透明感のある涼しげな顔をふわりと緩ませる美代子。左目の下にある泣きぼくろが彼女をよりセクシーに見せている。

「まず墨を磨って、それから好きな字を書いて……」
「そうじゃなくて、藤田千秋がどんな人だったのか訊いてるの」

 部屋の隅で雑談しているほかの仲居たちに聞こえないための配慮か、美代子は潤の耳元で囁いた。

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