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滲む墨痕
第3章 雪泥鴻爪



 宴会は午後六時に開始された。
 乾杯の挨拶が済むと、客たちは酒に口をつけたり料理に箸をつけたりしながら談笑をはじめた。下は三十代くらいから、上はおそらく八十代くらいまで、年齢も性別も関係なく、酒を酌み交わし、愉しげに会話をして懇親を深めている。

 書道連盟というからには伝統を重んずるような堅苦しい団体なのかと思ったがそうでもなく、人々から漂う和やかな空気は藤田のそれを思い出させた。だが上座に並ぶ七人の役員の中にも、下座方向へ伸びる四本の会員たちの列にも、肝心のその姿はなかった。
 しかし、潤には気を落としている暇などない。配膳はベテラン仲居を中心とした数人のチームで行うが、宴会場での仕事が初めてとはいえ誰かのあとをついて回るわけにはいかない。美代子がいない分、ふだんよりも能動性が求められる。

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