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官能書道/筆づかい
第5章 羞心
「だけど、おねえさん、綺麗な顔して、こわい女《ひと》だよね」

 涼子は肩をすくめ、少女と入れ替りに部屋から出た。
 後ろでドアの閉まる音がした。

 片手で髪を整えながら、ホテルの廊下を歩く。

 少女はもう裸になって、コンドームの精液を使って鹿島に乱暴された風を装っているだろう。
 フロントに電話しているかもしれない。

 シャワーから戻った鹿島の驚愕を思うと、哀れをもよおす。
 身に覚えのない未成年淫行で、書家としての社会的生命は終わりだ。

 探偵をつかってまで、鹿島が涼子の動向をさぐろうとしているのに気づいたのは、ひと月ほど前。
 それをやめさせる最も確実な方法をとっただけだった。

 涼子の身体は、鹿島との情事でまだ火照っていた。

 心も熱く疼く。

 今すぐ、ここに紙と筆が欲しいと思う。
 今ならすばらしい書が書けるだろう。

 筆意はただひとつ。

 ――羞心

 身も心もすくむ、羞じらいのこころだった。

                   〈了〉
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