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いつかの春に君と
第1章 桜のもとにて君と別れ
…でも…俺は違う。
俺は、大佐を待たせたりしない。
絶対にしない。

鬼塚は、男の逞しい背中を抱き返した。
「…俺は、死にません。絶対に…」
男の鬼塚を抱く腕の力が更に込められる。
「絶対に…絶対に死にません。これから強くなって…もっともっと強くなって…いつか大佐を守れるくらいに強くなります!約束します!」
不意に…鬼塚の耳元で小さな笑いが漏れた。
可笑しくて堪らないような笑い声を聞いて、鬼塚はむっとする。
「何ですか?何か変なこと、言いましたか?」
男は猛禽類のような目を細め、愉快そうに笑い続けた。
「…この私を守ると言ったのはお前が初めてだ。大した奴だな」
「大佐…!」
不満げに男を睨みつける鬼塚の髪をくしゃりと撫でる。
「…ありがとう。だが、私はお前のようなひよっこに守ってもらうほど耄碌はしていない。百年早い台詞だな」
あとはいつものように、溜息が出るほどに大人の成熟した落ち着き払った貌であった。

…そして再び朧月夜に咲き映える桜を見上げ、独り言のように呟いた。
「…お前は生きてくれ…。誰よりも強くなって…生き延びてくれ…。私の願いはただそれだけだ」

…愛しているとは、言わない。
けれど、愛に一番近い言葉を貰ったと…鬼塚は感じた。
それで充分だった。

男の貌が近づく。
鬼塚はそっと瞼を閉じた。

…満開の桜の木の下で、まるで初恋のようなぎこちない…けれど愛おしむようなくちづけがそっと交わされた。

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