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女鑑~おんなかがみ~
第14章 被虐
「改めて聞くが,今,何か望みはあるのか」
若槻は再び尋ねた。
「かなえてやれるとは限らないが,少しなら役に立てるかもしれんぞ。」
「でも,…どうして」葵は戸惑った。

「…倉持木材を傾けた責任の一端は俺にもある。もちろん,だましたつもりはないが,株やら先物やらを君の父上に無責任に勧めたのは事実だ。君の兄上は俺のことを蛇蝎のごとく嫌っていたが,その理由の一つはこれだ。結果的には兄上のほうが正しかった。他にも理由はあるがな。」

「・・・・・・それなら,兄を探してください。
そして,兄が倉持木材をやり直せるようにしてください。

私は,ここでもっと一流の女郎になって,お金持ちの人に買っていただいて,お金をたくさん稼ぎます。
若槻さんがおっしゃるように,私はたぶん,男にいじめられるのが好きな淫らな女なので,この商売が向いているのではないかと思います。

兄は,こういう商売は大嫌いですから,もう,兄妹の縁を切られてもよいと思っています。

けれど,もし,兄が今も,スエさん,つまり夕顔さんのことが好きなら,夕顔さんを身請けして奥さんにしてあげてほしいと思います。そのためにも私はたくさんのお客に…」

「……」若槻はしばらく絶句していた。

「夕顔さんは,今も,守り袋のなかに,髪飾りと大学ノートの切れ端の手紙を大事に大事に持っておられます。ときどきはそれを読みながら泣いておられます。
でも,私は,人を好きになる,恋するということがわからないのです。
そんなに長い間,好いた人のことを思い続けられるのが,羨ましい……。

私は、好きでもない人に無理やり抱かれて悦ぶ、淫らな女だから」

「好きでもない人、か」
若槻は顔を背けたまま,唇を噛み、
「…そうか」
と振り絞るような声で答えた。
そして、
「わかった。それでいいんだな。悔やんでも後の祭りだぞ」
と冷たく言った。


「じゃあ、今日はまず、こいつを舐めて、それから口に含んでくれ。」
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