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女鑑~おんなかがみ~
第14章 被虐
京都の料亭で,むらさき屋の女将である久子は弟の輝虎と会った。
輝虎はこれから先しばらくは,外地へ行くのだと言う。しばらくは会えなくなるだろう。

「姉上,久々のご旅行はいかがでしたか。」
「旅行じゃないだろう,あれじゃ弟の使い走りじゃないか。」
「でも,調べてくれと言い出したのは姉上の方ですからね。夕顔に無理矢理客を取らせたのがかわいそうだと。それで私が調べたが,私は彼に顔を知られているので会いに行くわけにはいかない,と。
・・・では,件の青年にお会いになったのですね」

「そうだよ。眉目秀麗で知られた若者だろうが,苦労したんだろうね。持ち物や着物は本当に質素で,いまだに中学時代の制服につぎを当てて着ているよ。
 優秀なのは間違いないようで,お前が先に調べた通り,今は商業学校の代用教員だが,英語も経営学も簿記も教えられるらしい。しかも家業の材木には関心はあるのだろうね。一時期は大学の研究室に聴講生か何かの身分で在席して,木材加工の研究の補助員のようなことをしていたしね。商業学校でも,かなりの博学で,生徒間での評判は悪くないよ。
もともとお坊ちゃんだった人が,働きながら夜学に通って,ここまでできるようになるとは大したものだ。
ただね……」
「そこまで調べられたとは。で,スエちゃんのことは」
「それも一途だよ。私はね,どう身分を隠そうかと思ったんだが,スエちゃんの遠縁の者だと名乗ったんだ。
そうしたら,もう,矢も楯もたまらない様子で,なんだか辛くてね」
「そうですか。では,葵,ああ操子ちゃんのことは」
「言えるはずないだろ。私の弟が水揚げをしているところだなんてね。
いずれにしても,あまり話したくなさそうだったね。家のことはすべて。だから,どこまでの事情を知っているのかも調べられなかったよ。」

「そうですか。実は葵がね。兄を探してほしいと」
「閨で頼まれたのかい」
「・・・,まあ,そうです。もちろん,何も言いませんでしたが」
「そうか,それなら今度は,そっちの話を聞こう。葵の水揚げはどうだった」
「……いきなり,そのような・・・・。」
「お前はしばらく,どこかへ行って留守になるんだろ。葵はうちの大事な売り物だからね,女将としては知っておかなければ」
「それなら,申しますが。
まず,あの娘は,マゾヒズムの傾向が強い。だから気を付けてやってください。」
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