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女鑑~おんなかがみ~
第15章 幻滅
百合子の母親は,その後,さらに声を潜めました。
「実は,百合子が幼いころに寝ていた部屋は,そのまえに主人の弟,つまりこの子の叔父が使っていた勉強部屋でした。主人の弟は,私が嫁ぐよりも少し前に,胸の病で二十歳で他界しておりまして,私も会ったことがないのですが,後から聞いた話ではかなりの不良だったようで,発禁になっているような本や,仲間内で回し読みするような,人様にはお見せできないような本を多く持っていたらしいのです。
そして,このような書物はすべて,柳行李の箱に入れて紐で括り,百合子の寝ている部屋に置きっぱなしてあったのです。
主人も,これがどうやら,よからぬ書物らしいということはわかっていたのですが,そのようなものを処分すると,いろいろ悪い噂が立つのではないかと考えると処分もできず,本当は燃やしたかったのですが,このような狭い町でまとめて燃やしてはご近所の迷惑になりますし,ということで,行李に紐をかけたまま,百合子が寝ている部屋の押し入れに入れておいたらしいのです。
私は,百合子を寝かせている部屋に,そんな恐ろしいものがあるとは想像もしませんでした。主人の弟の遺品をわざわざ改めようとは思いません。

けれど,あるとき,また七つか八つだった百合子が熱を出して寝ていましたとき,枕の下に,こちらの知らない切り抜きがあったので,確かめてみますと,恐ろしいような絵が描かれていました。そして,どうやら百合子は,そのような絵を見ながら,自分で・・・本当にお恥ずかしい・・・。

どこでそんなものを手に入れたのか,百合子を問いただしましたら,この行李を開いたのだと。
そこで私も,初めてその大きな箱を開きましたら,上のほうは,着物などがかぶせてあり,その下には英語の辞書,そこまでは良いかと思っていたら,その下に,おぞましい絵が描かれた冊子が束になって入っていたのです。
とにかく私は,これは大変だと思って,その本を運び出し,少しずつちぎっては炊事や風呂の焚き付けに使って処分しました。けれど,どうやらページを切った痕がほかにもたくさんありまして・・・。
そうしたら,この前,百合子が嫁いだ後で,たまたま百合子の小学校時代の教科書を整理しておりましたら,数枚が教科書のなかにはさんであったのです。」
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