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女鑑~おんなかがみ~
第15章 幻滅
ノートの切れ端のような紙に,明らかに百合子の字でした。
「探してくださってありがとうございます。申し訳ありません。私は姦通の罪を犯しました。罰を受ける覚悟はあります。しかし五助さんは悪くありません。先生,今までありがとうございました。私は多分,もうあまり長くはありません。どうか,私の真の姿を一度でよいので描いてください。五助さんは絵が下手なので描けません。絵の具と紙をお持ちになって,ここにいらしてください」
書かれていた住所は,この前から私が散々捜し歩いた町の近所でした。

茶店ということにはなっているが,実際のところ,何の商いをしているのかもわからないような怪しげな店です。
私は送られてきた紙を確認しながら,小さな入り口しかない店の前をうろうろと探しました。
すると,後ろから「先生,ご無沙汰をお許しください」という声がして驚きました。

身体が熊のように大きくて無精ひげの男が背中を丸めて頭を下げていました。
「尋常科ではお世話になりました五助です。」
十年前に小学校を去った五助と,目の前の大男を結びつけるのに時間がかかりました。この大男は,次に私が言葉をかけようとするとすぐに,地面に膝をついて座り土下座をしました。
「先生,俺がすべて悪いのです。俺は打ち首になってもいいので,百合子さんを許してください」
百合子の手紙が目に浮かびました。
互いに罪をかぶりあっているのでしょうか。
自分が疎外された寂しさを感じました。
「君,何を言い出すのだ。姦通が打ち首獄門だったのは徳川時代の話だ。ご維新のあとは長くても懲役二年。だがそもそも私は百合子のことも君のことも告訴する気はないから安心して頭をあげなさい。百合子が世話になった。」
私がそういうと,五助はきょとんとして頭を上げ「先生,こくそとは何ですか」と尋ねたので私は思わず吹き出してしまいました。その顔を見ると,十歳のときの姿を思い出したりもしました。
「とにかく,君らが牢屋に入れられたりすることはないということです。今後,私たちの婚姻関係をどうするのかは落ち着いて話し合いましょう。いずれにしても一度百合子に会わせてもらえないか。決して強引に連れ帰ったりはしないから」と私は言いました。
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