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女鑑~おんなかがみ~
第15章 幻滅
ーーーーーーー五助は,しばらく私の顔を見て考えていましたが,やがて決心したように,さっきと同じことを繰り返します。
「俺が百合子を捕らえて攫いました。だから俺だけが悪い。百合子は悪くない。百合子は先生の嫁さんだから,先生に返す。俺が泥棒だ,百合子は可哀そう,百合子は先生が好き,俺が悪者・・・」
それは,まるで自分に言い聞かせているようでした。

百合子が葉書や封書を寄越したことを鑑みると,それは恐らく偽りで,五助が百合子をかばっているとしか思えませんでした。私は筋道を立てて説明しようとしましたが,どう見ても話しが噛み合いそうになかったので,途中からは「わかったから,後で考えよう」と言いました。

五助は「先生,どうぞ」と言って狭い店の奥に入っていきます。一応,飲食店のようではありましたが,中は雑然としていて,小さな衝立であちこちを区切っています。

そこをさらに通った奥の廊下の突き当りに破れた襖があって,五助は「捕まえて,ここに閉じ込めました。俺が悪い」と言いながら襖を開け,さらに奥に向かって,「何も言わなくていいぞ,俺が勝手に拐したんだからな」と怒鳴りました。

中を見て,私は言葉を失いました。
三畳ほどの部屋で,百合子がほとんど全裸のまま赤い縄で全身を縛られていました。
私はその姿を見て,初めて百合子に対して,性的な欲望と興奮を抱きました。それまで百合子に対しては,ただ清らかで決して犯してはならない存在だとしか思えなかったのですが,縛られた姿の百合子に対して,性というものを初めて感じたのです。しかし,そのようなことを悟られるわけにはいかないと思い,湧きあがってくる欲望をひたすら抑えようとしました。
「百合子さん,どうして,・・・」

「先生,今度は五助さんを殴らないでください。
私はこのような女です。清らかでもないし,美しくもありません。
私を軽蔑してください。」
百合子は,そう言いました。清らかな関係のまま一緒に暮らしていたときには,ほとんど自己主張をしなかった百合子が,私に対して,これほどはっきりと発言したのは初めてでした。
「まさか,あの私が担任をしていたときも・・・なのか」
学校の物置で,夢中になって百合子を助け,五助を殴ったこと,五助がそのまま十歳で学校を去ったことが思い出されました。

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