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女鑑~おんなかがみ~
第15章 幻滅
話を聞いていた孝秀が口を開いた。

「驚きました。女も,そのような欲望をもつのですね。実は私も,昔好きだった女性に,抱いてほしいと言われましたが,祝言まではそのようなことをしてはならない,ふしだらなふるまいをするな,と叱ったのです。

それは彼女を尊重しようと思ってのことでした。つまり,彼女はもともと貧しい身の上でしたので,自分の貞操を犠牲にしようとしていると考え,だからそのようなことはするなと,そういうつもりだったのですが,彼女は非常に落ち込んでいるように見えました。
その後,彼女は私の,その,つまり,性器を,口に入れるというようなことをしました。私は,驚いて彼女を殴りました。貧しい身の上の女中だからといって,そのように卑屈になり,男の汚いものを口に入れるような,そのような女性であってほしくはなかったのです。

私は,女中であった彼女と,なんとか父母の理解を得て婚約したいと思っていたのですが,父は,それを阻止しようとして,彼女を遊郭に売ってしまったのです。今思えば,私のやり方がいろいろと拙かったのでしょう。
女性が男に身体を許すのは,妻としての務めとか,子を産むためとか,あるいは家のために売られてとかで,強いられて,苦痛に耐えているものだと思っていました。女性にもまた,男性と結ばれたいという欲望が,それも苦痛を伴ってでも結ばれたいという欲望があるのなら,あのときに,彼女の望みに応えてやればよかったと,今,初めて思いました。」

佐伯は,「そうでしたか。君が,同僚や上司の女郎買いにいちいち目くじらを立てていた理由がわかりましたよ。」と言って微笑んだ。
そして
「これからでも遅くはないと思いますよ。私は。ただし,今の彼女が,君の思い描く理想とは大きく隔たっていたとしても,愛することができるのであれば,ですが」
と言った。

孝秀は「あ」と口に出しかけてやめ,それから,「そうですね」とだけ答えた。そして,「佐伯先生は,そのあとどうなさったのですか」と話の続きをせがんだ。
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