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女鑑~おんなかがみ~
第15章 幻滅
佐伯は再び話し始めた。
「私は・・・・。百合子が望めば連れて帰ろうと思いました。けれど,百合子は,自分の姿を描いてくれと言ったのです。それは送られてきた手紙にも書いてあったことでした。
だから私は,混乱した頭のままで,縛られたままの百合子を描きはじめました。

最初は頭が混乱していたこともあって,何枚も描き損じましたが,徐々に不思議なほど筆が進みました。
これまでに描いていた清楚な姿の絵よりも,自分で言うのもなんですが,遥かにうまく描けるのです。これまでは趣味として,嗜みとして絵を描くという感じだったのが,すべてを忘れて描くことに没頭していました。
気が付くと,一晩中,座ったままで描き続けていました。
五助が「先生,朝ですよ」と言って握り飯と茶を持ってきてくれました。

「先生,同じ格好でいては百合子さんの身体にも毒ですから,百合子さんを休ませてあげていいですか。」
と五助が言ったのを聞いて,初めて,自分が描き続ける間,百合子がずっと縛られたままだったことに気づきました。

「すまなかった。もう描き終わったからいいよ。」と私のほうが慌てました。
「先生,見せてください」と百合子が言ったので,描きあがったものを見せると,百合子は恥ずかしそうに顔を赤らめました。
前に清楚な姿を描いたときとあまりにも違う反応に驚きました。
「先生,これをいただいていいですか。先生が百合子を連れて帰られたあと,俺は,この絵を百合子だと思って暮らします」と五助が言いました。
「先生,ほかにも描いてください。ねえ,五助さん,今度は・・・」
百合子と五助がひそひそと話していたかと思えば,五助は前とは違った形に百合子を縛りました。そうされると百合子の姿は乳房のふくらみが強調されて,色っぽい別人のように見えました。
私は,それをまた描き始めました。そうして五助は縛り方を幾度か変え,私は百合子の絵を十数枚も描いていました。
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