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女鑑~おんなかがみ~
第16章 献身
むらさき屋では新聞を取っている。最初に女将が読み,それから千鳥,夕顔,朱音,葵と順に読む。ある程度世の中のことも知っておかないと,客との会話にも困るので,なるべく読むようにと女将は言い聞かせている。それでも夕顔はいまだに漢字は難しいようで,実のところ写真しか見ていない。美形の役者の写真を見るたびに,「葵ちゃん,これ孝秀さんに似ていると思わない?」などと声をかけるばかりだ。他方,女学校を途中まで出ている葵はいつもさっと目を通し,朋輩たちに尋ねられると字を教えたり,記事を説明したりするので感心されている。
だが,女たちのなかで,最も熱心に新聞を「見る」のは,古新聞を整理するタケである。客の靴の下に敷いたり,汚れ物を包んだりするときの新聞紙に,顔写真,とりわけ皇族方の写真が入っている紙を使ってはならないからだ。
古新聞のなかに顔写真がないかを丁寧に確認し,顔写真のあるものはそれらが見えないようにたたんでから焚き付けに使い,文字のみの紙面を玄関先におくようにしている。
女将はそのようなことには特に厳しいのでいつも気をつけているのだ。

「え,この記事かい」
そこにはある高名な政治家が暴徒の襲撃を受けたことが記されていた。
その政治家は,ある地方に知人を訪ね,鉄道の駅に降り立ったところをナイフで刺されたという。幸い急所を外れたので軽傷で済んだとのことであった。犯人は捕まっていないらしい。

「こんな有名な政治家がうちに来ていたとは信じられないが」と女将が言うと,タケは,
「たぶん,誰も顔を見ていません。例の若槻さんの知り合いの方で,「タイガの紹介」だとだけ名乗って覆面をつけてきた人です。部屋では葵ちゃんにずっと目隠しをさせていたので,誰も見ていないのですが,私が酒を運んだときにお顔が見えたのです。それから・・」
「何か,気になることがあるのかい」
「前に葵ちゃんが折っていた折り紙の裏に,この駅の名前が書いてあって」
「それは本当かい」
女将の顔色が変わった。
「どうして折り紙など?」
「私,折り紙のやり方を知らないので,葵ちゃんが折ってあるのを一枚だけ開いて,それを使って折り方を覚えようと思って開いたら,裏に駅の名前やら時間やらを書いてあったのです」
「・・・それから?」
「かなり苦労したのですが,なんとか元通りに折りなおしたのでそのまま返しました」
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