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女鑑~おんなかがみ~
第16章 献身
堪えていた涙が初めて溢れた。自分が今,奪われようとしているものの意味を突然に悟ったのだ。
これまでずっと両親から,お前は武士の娘なのだから嫁入り前に男に肌を許すようなことがあってはならない,もし辱めを受けそうになったらその前に命を絶つのだと厳しく教えられてきた。だから今ではどんなに疲れて眠っても浴衣の裾を乱すことも決してない。けれど今,親によってここに売られ,嫁入り前の身体を開かれるのだ。
「跡取りの輝虎のため,お前は辛抱してくれ」と言われたのは,そういうことだったのだ。

すすり泣く小紫に旦那は猫なで声で語りかけた。
「お前さんは,踊りや三味の稽古を一生懸命して,弟に学問をさせるために気張っているんやろ。それやったら,これも辛抱せんな,水の泡になるで。弟を帝大に行かすんやろ。
いっときは辛いけど,じきにようなる。」

すべてを悟った瞬間に脚の力がぐにゃりと抜けたような気がして両足は大きく開かれ,旦那様の肩の上に載せられた。自分の脚がこんなに開くのだということに驚いていると,身体の奥がめくられて芯に鈍い圧迫感を感じた。

「・・・う,痛」
声を出しそうになったのを慌てて止めて唇を噛んだ。
それは直ぐに引き抜かれ,圧迫感は消えた。

・・・ねえさんたちが最初は痛いとか言っていたのは,もう済んだのだろうか。
少し拍子抜けしたようになりかけたとき,もう一度同じところに,さっきよりも熱いものがあてがわれ,
次の瞬間,身体の中がめりめりと引き裂かれていった。
「あぁ・・・」
逃れようとする肩が両手で押さえつけられて動けないまま,脳天にまで届くような痛みに耐えた。

「さっきのが儂やと思うたんやろ。見くびられたもんやな。あれはこの指や。
しばらく辛抱しや,泣いてもかまへんで,今日くらいは思う存分泣いたらええ。
泣いてる娘の初物をいただくのはなかなかええものや」

ざらざらとした舌が伸びて耳元まで流れかけた涙が舐めとられた。
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