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女鑑~おんなかがみ~
第16章 献身
「先ほど父からの手紙で…実は,みやこ呉服さんに…弟が‥‥」
混乱した頭のままで,置屋のおかあさんに事情を説明しようとしたが,うまく言葉が出てこない。しびれを切らしたおかあさんは,小紫宛の手紙を奪い取って読み,そしてため息をついた。
「これは大変だ。」
何人もの芸妓のおねえさんたちが集まって大騒ぎになった。
「よりにもよって,旦那様を殺そうとするとは,ああ,こわいこわい。」
「あんた,旦那様のお相手がいややから,弟にうまいこと頼んでやっつけてもらおうとしたのやろう」
「こんなことがしれたら,私らのお座敷も全部,断られてしまう。ほんまに迷惑なこと‥‥‥」

思いもしなかった疑いを掛けられ,どうしてよいのかわからないままでひたすら床に頭を擦り付けるようにして詫びた。
そして,この置屋の世話になるようになってから弟とは会ったことも文のやり取りをしたこともないのだ,偶然に遠足で見かけたのだということを繰り返し説明し,ようやくそれだけは信じてもらえたが,おねえさんたちの態度は手のひらを返したようになった。

「どうか,旦那様の見舞いに行かしておくれやす。お頼み申します」
と繰り返したが
「あほやなあ,みやこ呉服さんには奥さんも子どもさんもいてはるのや。
見舞いになんて,立場もわきまえんと,何様のつもりや」
と一蹴された。

いらいらしながら忙しく出かけたり帰ってきたりしていたおかあさんが,
「とにかく,交番の巡査さんに説明しにいけることになったわ」といってくれたときには安堵のあまり涙がこぼれるほどであった。

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