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女鑑~おんなかがみ~
第16章 献身
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久子は昔を思い出しながら,四十年も前の理不尽に対して,急に悔しさを感じた。
・・・・・・・今の私なら,言い返してやるんだけどねえ。

自分で望んで花街にきて父親より年上の旦那に身体を任せたわけではない。それどころか,弟のために辛抱してくれと,親に因果を含められて辛抱してきたのだ。
多感な少年である弟の心を傷つけたと言って巡査に叱られたが,久子もまた当時は多感な娘であり,武家の娘としての誇りを踏みにじられながら幼い身体を捧げたばかりだった。

「弟の輝虎の将来を少しでも輝かしいものにするために」という献身が,実質的には何の役にも立たず,逆に弟をもう少しで前科者にするところだったというのは受け入れがたい現実だったが,久子はそれほど傷つかずに済んだ。
当時,理不尽を理不尽とも思わなかったのは,献身と自己犠牲の相手がいつの間にか変わっていたからだった。

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数日後,包帯を巻いたままの姿でみやこ呉服の旦那様が来られた日,小紫は安堵のあまり涙が止まらなかった。
「小紫の献身に免じて,弟さんのことは水に流したるわ。なかなか見どころのある弟さんやないか。」
ひたすら平身低頭して詫びる小紫に
「この身体を好きにさしてもらうんやったら,こっちも少々のことは辛抱したるわ。その代わり,よう尽くすんやで」と言って笑った。

その日小紫は,初めて絶頂を知った。
前に可愛がっていただいた日からひと月以上になるので,痛みがあるのではないかと不安だったが,旦那さまの匂いを久々に感じたとたんに身体の奥から蜜があふれ出し,堅くて大きなものが身体の奥に収まった途端に,頭のなかが真っ白になった。
こんなに気持ちのよいことがこの世にあるのかとさえ思った。
「……ありがとうございます。こんなにいい気持ちにさせていただいて。今まで痛いとか辛いとか思ってて,すんまへんでした」

「こら,尽くしますっていうといて,これやったら儂がお前に尽くしてるようなものやないか。旦那をほっといて先に逝くとは何事や。儂が怪我して来れやん間に,淫乱になったやろ。ちょっと懲らしめたほうがよさそうやな。儂は淫乱な女は好かんからな」
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