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女鑑~おんなかがみ~
第16章 献身
遠い昔を思い出すうちに,久々に身体の奥が熱くなり湿り気を帯びてくる。
男と閨に入るということをしなくなっているが,こんなことを思い出しただけで,こんなになるなんて。

今も身体の中の人には見られない部分に,火傷の痕や太い針で突き刺された痕が残る。
今は痛みはないが,傷跡が痒くなったり,ひきつれたりするたびに旦那様を思い出してきた。

みやこ呉服の旦那様が亡くなられてからは請われるままに何人かの方に世話になり,そのたびに男女の関係になってはいたが,誰もこの傷に気づいた人はいなかった。そのなかで一番長い付き合いだったのは,長く大臣を務められた綾小路さまで,このときは迂闊にも,弟の上司だということを知らないまま,ずっと世話になってきた。

「そういえば,この前に輝虎は,葵のことを,マゾヒズムだと言っていたっけ。考えてみれば,当時の私もマゾヒズムだということになるんだろうかね。」

久子はぼんやりと思い出す。
帯を縫うのに使うのだという太い針や鋏で失神するほど痛めつけられ,得意だった踊りにも支障が出るようになり,異変に気付いた置屋のおかあさんが,もうあの旦那様にお世話になるのはやめましょうと何度も言ってくださったのに,それでも旦那様に懲らしめていただくのを心待ちにしていた。

痛めつけられるのが嬉しかったわけではない。
武家の娘として弟の立身出世のためにこの身を犠牲にする,という張り合いに代わるものが欲しかっただけだ。
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