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女鑑~おんなかがみ~
第16章 献身
「さっき,お茶をもってきた小菊はどうですやろ。歳はまだ足りないのやけど,母親も元芸妓で花街しか知らん子です。負けん気が強うて,ちょっとでも早うに女になりたいらしくて,早う水揚げさしてくれ,旦那を持たしてくれと本人のほうから催促してくるありさまで」

「ああ,そうか。それもいいけど,もう一人けったいな子がおったやろ。あっちはどうや」

「あの子は,もともと,かなり,ええとこの娘で,それが急に家と二親を亡くしてしもうて可哀そうやいうて,おかあさんが引き取ったんです。芸事の見込みがある子やからいうて。けど,なんというか,その,そういうことは何も知らんみたいで,もうちょっと,慣れてから,ゆっくり教えていくしかないかと。」

そう言いながら小紫は,いろいろともやもやしたものを感じていた。

小桃は急な不幸に見舞われたのだからと気遣って小紫が言葉を掛けると,商売や社交に忙しい父母とはほとんど一緒には暮らしてはおらず,ずっと屋敷の離れで大勢の使用人たちに囲まれて育てられてきたので,特に何とも思わない,それより,これまでどんな無理でも聞いてくれた女中たちがみな,さっさと去っていったのが気に入らないのだという返事で,小紫は理解に苦しんだ。

行く当てがなくなり,幼いころから習っていた舞踊の師匠を訪ねると,その師匠は芸舞妓にも舞踊を教えている人であったので,芸妓を目指すことを勧められてここに来たのだと言った。そのように本人が望んできた割には,座敷での作法などはあまりにも未熟で,急須から茶を入れることすらまともにできず,それまで家で家事も自分のこともまともにしたことがないのがまるわかりであった。しかも置屋のおかあさんやおねえさんにどれほど叱られても,ほとんど気にすることなくけろっとしていたので,置屋ではみな,小桃を引き取ったことを悔やみはじめていた。

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