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女鑑~おんなかがみ~
第16章 献身
他方,この呆れるような天真爛漫さや子供っぽさが,座敷ではどういうわけか面白いといって好まれ,また芸事の才能は驚くほど素晴らしく,特に踊りでは幼いころから辛い下積みを続けてきた芸舞妓たちを凌ぐほどであったため,皆がやりにくさを感じていた。

またこの時代,舞妓の少女たちはみな,十二か十三くらいになると水揚げをすませており,それが当たり前だと諦めて受け止められていたなかで,十五になる小桃が未通女(おぼこ)のままであることについても,ほかの少女たちから,どうしてあの子だけ…という不満が上がり始めてもいた。

この小桃は,ほかの年長の芸妓たちにも平気で口答えをするようなところがあったが,なぜか小紫のことだけは非常に慕っていた。それはひとえに小紫の踊りがほかの芸妓たちとは群を抜いて優れていたからであり,踊りには自信のあった小桃も,「小紫ねえさんの踊りには絶対叶わへん。でも,いつか自分も小紫ねえさんのような芸妓になりたい。小紫ねえさんの弟子になりたい」などといって,頼みもしないのに身の回りの世話を焼きたがった。といっても茶もまともに入れられないような娘に世話をされても却って迷惑で,着物を畳みますからというのでうっかり預けたらしわくちゃのまま積み上げてあったり,伝言を頼むと別の人にまったく違う話が伝わっていたりして,いずれにせよ用を頼むと面倒があとで三倍くらいになる有様なので,「何かお手伝いしましょうか」などといわれても適当にあしらっていた。

ただ,そのような事情から,なんとなく小桃は小紫の妹分というようなことになり,ほか置屋のおかあさんや他の芸妓が叱りたいと思ったことでも小紫を通じて注意する,ということが往々にしてあった。置屋のおかあさんや他の芸妓たちも,引き取ったものを追い返すとなるといろいろ面倒なので,小紫が面倒を見てくれるのなら,それに越したことはない,という空気が出来上がっていた。

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