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女鑑~おんなかがみ~
第10章 追懐
「女将さん、ちょっと」
夕顔が女将の部屋に入ってきた。
今や千鳥は年季が明けたが、そのままここに残って女将の仕事を手伝いながら娼妓を続けていた。紅葉は財を成した商人に身請けされて大陸に渡り、朱音と夕顔、そして二年前に京都から事情があって移ってきた芸妓の小鶴の四人となっていた。
「昨日から来た操子ちゃんのことですけど、前の倉持さんの……」
言い終わらないうちに女将は大体の察しをつけた。
「やはり、倉持のお嬢様の成れの果てか」
「そうです。操子ちゃんという名前だったように覚えています。年も調度あうので……」
「そうじゃないかとは思ったんだけどね。連れてきた女衒があまり詳しい事情をしゃべらないもので。それなら、お前さんのことは覚えているんじゃないのか」
「それが、どうなんでしょう。私が倉持木材さんで世話になっていたときは、まだほんの子供だったので」
そこへ千鳥が入ってきた。
「私も何かおかしいような気がするんです。わざわざこの娘を夕顔のいるここに連れてくるとか、また、例の、若槻さんという方がかかわっておられる気がして……」
「やはり、お前もそう思うかい。一度、呼び出して確認したほうがよさそうだね。
十年以上会っていないから、正直なところ、会うのも億劫なのだけれど」
女将はしみじみと言った。

「それより、夕顔、お前さん、何かあの娘のことで、気になることがあったんじゃないのか」
「いえ、別に気になるということではないのですが、あまりに平然としているので、かえって気味悪くて。
本当に何も知らないんならかわいそうすぎるし、でも、流石にそうではなさそうで。
好いた男などというふしだらな者はいない、なんて顔色一つ変えずに言われたら、なんだか、こっちは……」
「なるほど、そうか。お前さんには四年前、可哀そうなことをしたからね。
お前さんは、もし、あの何とかという坊ちゃん、そうか、あの娘の兄さんになるのか、それを好きになっていなければ、笑って売られてきたはずなんだろ。
それがよかったのかどうか、わからないけどね。
まあ、ご立派なお家の娘のほうが、惚れた晴れたはご法度で育てられるから、そんなものなのかもしれないね。
自分から進んで売られてきたってのも、あながち大げさじゃない気がするよ。
現に私がそうだったからね。」
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