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第10章 追懐

「結婚、そう書いてあったのですか」
と夕顔は涙ぐんだ。そして操子から渡された髪留めを大事そうに胸に当てた。

「それを考えれば、夕顔にはかわいそうなことをしたね。お前はありえない夢をみていたわけではなかったとわかったよ。
ただ、操子が責任を感じる必要はない。
親に隠し事をせず正直にというのは、小学校でも習うことだからね。妹が板挟みになるような手紙をわざわざ送る兄さんのほうが悪いんだ。
身分違いの恋が悪いとは言わないが、あんな子供じみた方法で、妹に使いを頼むような男と一緒になるのが本当によいのかどうか…」
と女将は独り言のように言った。