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女鑑~おんなかがみ~
第11章 嗜虐
「若槻,これが儂がなじみにしている小紫だよ。どうだ,いい女だろう。近いうちに落籍せてやって,この辺に小料理屋でも持たせてやろうかと思っているんだが,なかなかいい返事がもらえなくてね・・・・。」
先日に大臣の妻子ともパーティで知り合った若槻は返事に困った。
「ほら,小紫,こっちが儂の部下の若槻だ。本当に仕事ができる奴で,将来は儂の娘婿にと見込んでいるんだがね,堅物すぎるのが難点ときた。小紫,こいつに遊びを教えてやってくれよ。」
小紫と呼ばれた芸妓の顔が一瞬,こわばったように見えたが,直ぐに
「若槻さまでおいやすか。ほんまに賢そうなお方どすなあ。大臣にはいつもお世話になっております。今日はようおこしやした。」
と話を合わせる。
そして,自分より若い芸妓と舞妓二人に若槻の相手をするように命じて,自分は綾小路大臣に酌を続けている。

若槻は,このようなところで十数年ぶりに姉に会った衝撃で酒も喉を通らなかった。大臣は
「若槻,お前,儂の小紫の色気にやられたのか。だが此奴は儂のものだからな」などと笑っていた。
小紫が席を立ったとき,若槻は後を追い,廊下で小紫の行く手を阻んだ。
「姉上,お久しうございます。輝虎です。姉上の仰せの通り,帝大を出て高等官になりました。早くお知らせしたかったのですが,前の置屋に手紙を書いても宛先不明になってしまって・・・・」
「なんの,お話どすやろ。お人違いと違いますか。」
小紫はそう言ってとぼけ,若槻を残してすり抜けるように座敷に戻ろうとした。
「お待ちください。姉上さま,輝虎は・・・・」
「おやめなさい。お名前に傷が付きます。若槻さま,この度はご出世,おめでとうございます。」
若槻は流石にそれ以上姉を追うのはやめた。
大臣に怪しまれないようにと,座敷に戻り,小紫からあてがわれた若い芸妓との世間話に興じた。大臣はその夜,京都に泊まるということだったが,若槻は一人でホテルに宿泊した。

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