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女鑑~おんなかがみ~
第11章 嗜虐
実の姉が大臣の馴染みの芸妓であることが知れたことをきっかけに,千賀子姫との結婚話が消えたとき,若槻は,この少女を自分が汚さずに済んだことに安堵した。結果的には遊戯会で手を繋ぐ以上の接触はないまま,若槻が一方的に歪んだ妄想を抱くのみに終わった。
 
大臣から遠ざけられたとはいえ,官職を続けて地道な昇進を狙うことは十分可能であったが,何かのはずみで千賀子姫に出くわしたとき,自分を抑えられる自信がなかった。そして芸妓を愛人にしていながら,娘の結婚相手が芸妓の弟であることは許せないという大臣の矛盾した基準にも憤った。

そんな折,以前に官職をやめていた知人に唆されて,大臣に関する機密情報を提供し,報酬を得た。この知人は,官職から離れたのちに地下組織で反政府的な活動を行っていたが,若槻は一時期,上流社会の二重基準に対する憤りから,この知人と行動を共にした。しかし,もともと途中からそのような革命の理想に身を投じるつもりもなかったので,自分の足元には火の粉が及ばぬように慎重に行動し,やがて距離を置いた。

それからのち,若槻は金になるかどうか,を中心にして行動の指針を決めることにした。法律や経済の知識も,高等官,とりわけ大臣秘書として得た国家機密に当たるような情報も,使いようによっては驚くほどの金になった。犯罪すれすれの組織に法律の知識を提供したり,地位の高いお偉方の汚れ仕事を一手に引き受けたりした。

憎らしくてたまらない呉服屋のヒキガエルも,公家出身の大狸のような大臣も,金さえあれば見返せるのだと思った。
それと同時に,若槻は,遊郭などに出入りして女も金で買うことを覚え,金の力で美しい女が意のままになるという経験を重ねた。
 やがて,初物だという触れ込みの少女を相手にすることも増えた。そのうち半分ほどは偽りだったが,それでも,若槻は,羞恥と恐怖で泣きじゃくる少女を犯すことに嗜虐的な喜びを覚えるようになった。恐ろしいことに行為の最中には,姉の敵討ちをしている気になっていた。俺の姉上はもっと幼い年で耐えたのだから,お前も・・・という支離滅裂な論理で少女の身体を蹂躙した。そして果てた後には,自分もあのヒキガエルと同じ下劣なことをしてしまったという自己嫌悪に陥る・・・ということを繰り返した。

若槻が,倉持木材に出入りするようになったのはそんなときであった。
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