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女鑑~おんなかがみ~
第12章 貞操
「どうか,お許しください。私は下働きでございますので」
「いいじゃないか。こんなに可愛いのに下働きってもったいないなあ」
男はしつこく着物の襟に手を差し込もうとする。

そうしているうちに,部屋から夕顔が顔をだした。
「あらひどいわ,あたしがいるのに,こんな子供に手を出そうとするなんてひどいお方,浮気はいやよ。部屋で続きにしましょう」
夕顔が甘ったるい声で男を宥めながら,操子に目配せを送ってくれたので,操子は炊事場に逃げた。

急須や湯呑を洗いながらも,触られた乳房の感覚が身体に残るのが悔しくて涙が零れた。

*********
男の人から付け文をされたり,髪や着物を触られたりするのは,女の側に隙があるからです。貞操は女の命ですから,そのような隙を見せるのは,最も恥ずべきことです

女学校で何度も習ってきたことだ。
級長であった操子は,それを当然だと思っていた。
時折,うわさが流れ,お遣いに行ったときなどによその男に顔を覚えられ,女学校のそばで待ち伏せをされたり,着物を引っ張られたりした人がいる,という話は聞いたことがあったが,そんなものは隙があるからだろうと思って,そのような目にあった人を軽蔑してきた。

けれど・・・・,自分にも隙があったのだろうか。
隙があったから,夕顔さんのお客に胸を触られたのだろうか。

操子は,男によって強引に緩められた袷を直しながら,胸に残る掌の感覚が汚れた染みのように体中に広がるように感じた。
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