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女鑑~おんなかがみ~
第13章 水揚げ
葵は,涙を見られまいとして顔を背けた。
女は誰もが経験することなら,辛抱できないはずはないと思っていた。
痛いのをしばらく我慢すればよいだけだと。

けれど,身体中をまさぐるように触られる感覚が辛くて,痛いとかそういうことはないけれど,自分のなかの何かが汚されるような気がして,悔しいような恥ずかしいような感覚で,涙がどんどん溢れてくる。

幼いころから,怖い夢の中で,洞穴のなかで虎に食われそうになったが,本当に食われたことはなかったと思う。
一思いにがぶりと食われるのかと思って待っていたのだけれど…。

身体中を若槻さんの指が這いまわる。
胸を掴まれるのは少し痛いけれど我慢できないほどではない。
ゆるやかなくすぐったさと,温度の感覚。
ひんやりとした指先とそれよりは少し温かな掌。
自分の身体の表面の皮膚が,その温もりを感じているということが,なぜか酷く悔しくて涙が止まらない。

乳房やうなじで感じた指先の感触が,なぜか背中を通りぬけて,お腹に届く。
そのたびに,お腹の下のほうがきゅんと震えて熱くなる。
私の身体はどうなっているのだろう。こんな繰り返しがいつまで続くのだろう。

……大丈夫,怖くなどない,耐えられないことなどない。
ただひたすら涙を堪えながら,敷布の端を握って時が過ぎるのを待った。

「……え」
さっきとは別の感覚が乳房に届いた。
若槻の髪が首元にある。
「どうして・・・・? お顔? 口?」
いつの間にか,長襦袢は肩から大きくはだけられ,そして若槻は葵の乳房を口に含んでいる。
赤ちゃんのようなことをする人だなあと思ったとき,乳首の先に感じた生暖かい触覚が,電流のようにお腹の下に届いた。
下腹部が燃えるように熱くなって,そこから熱いものが染み出そうとしている。
「ああ」
堪えていたが思わず,声を上げてしまった。
このようなことがいつまで続くのだろうか。

胸を口に含んだのなら,そのまま一思いに噛みついて食べてしまってくれたらよいのに。
下腹部の感覚を紛らわせようと,腿をしっかりと閉じたが,再び熱い波がそこに届く。

「こんなに可愛いお嬢さんだったとは。なんて可愛いんだ」
頭の上で聞こえた若槻の声は,記憶しているよりも若い感じだった。

……可愛いの……? 私が……?
また涙が溢れた。
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