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結螺(ゆら)めく夏
第1章 榊様
赤と白の腰を揺らし
羽衣の様な尾鰭をゆらりと揺らめかせる

その優雅に泳ぐ姿は
沢山の人の目を惹きつけて止まない

だけど
透明硝子の中でしか生きられない琉金は
ただの見世物

色欲の玩具……


逃げ出せる事も出来ず
一人寂しく、泳ぎ続ける……







「……どうした」

行灯の消えた仄暗い部屋の中
窓格子から差し込む月明かりが金魚鉢を照らす
その中で泳ぐ琉金の白い部分が、青白くキラキラと光る

「…風流だなぁ、と思っ……」

そう言いかけた僕の背後から、榊の手が伸び肩を強く抱いてくる
瞬間、四十代特有の体つきと匂いが僕を包んだ

「そんなにこいつが嬉しいか?」

肩口から榊が金魚を見遣る

「……はい」

そう答える僕の襦袢を乱し、開け落ちて露わになった肩に、榊の熱い息が掛かる

首を竦め少し背を丸めると、無防備になった項に顔を埋められ
榊の熱い息と共に舌が這う

「……ん、っ!」

月明かりのせいで青白く光る僕の肌を、愛おしむ様に榊の指がするりと撫でる


窓枠の上には風鈴が吊され、僅かな風が吹くとちりん、と涼しげな音を響かせる


今回の金魚といい前回の風鈴といい
花魁でもない僕に、どうして榊様ともあろうお方が馴染みとなり、土産まで持ってきてくれるのだろうか……


「:結螺(ゆら)に似ているだろう?」
「……そんな、僕はこんなに美しくは……」
「こんな綺麗な顔をして、何を言うんだ」

榊の手が、僕の顎を包み上げる
青白い光が、一角しか照らさなかった僕の顔や露わになった喉元を照らす

そこに指が這い、細い首に浮き出た喉仏を愛おしそうに撫で回す

「お前だけでは寂しかろう…
私に似た金魚を連れて来て、お前の隣に泳がせよう」

耳元で甘く囁かれ、ゾクリと体が震える
榊の指が喉元から胸元へと移動し、僕の胸の尖りを摘まむ
そしてくりくりと刺激を与えられると、次第に体が熱を帯び、感じ、とろんと瞳が蕩けてしまう……

「……はぁ、…あっ……ぅ、嬉しい……です、榊…さま…」
「お前は私のものだ、結螺」

顎先を天に向けたままでいると、榊の唇が耳朶に触れる
そこから熱い息が吹き込まれ、ゾクリと体が震えた

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