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振り向けば…
第1章 アホの子…



「来夢(らいむ)…。」


お母さんが呼ぶ。

わざと聞こえないフリをしてソファーの下で玩具に夢中な素振りを見せる。

文字を練習する為の玩具…。

アンパンの顔を付けたヒーローが平仮名を教えてくれる玩具…。

書く事も出来て私は自分の名前が書けるように毎日練習をする。

だって、お父さんが


「小学校に入ったらな。自分の名前が書けないと困るんやで…。」


と言うて誕生日に買うてくれたから。


「来夢…、お願いやから…、ちょっとだけ、こっちに来てえや。」


まだ一歳の弟を抱っこしたままお母さんがダイニングの方へ来るように私に言う。

ダイニングのテーブルには何故か私の知らないおばさんと私くらいの男の子が居るから私は行きたくない態度を貫き通す。


「来夢…。」


お母さんがため息をついた。

この3ヶ月、お母さんとはまともに口を聞いていない。

お母さんは弟の事だけで精一杯…。

お父さんは年末の私の誕生日が終わり、お正月が終わると突然帰って来なくなった。

お父さんと一緒に名前を書く練習をする約束だったのに…。

足し算だってもう覚えた。

手の指を使わないでも足し算が出来る子になった。

お父さんが望むからお父さんの為に頑張った。

なのにお父さんが帰って来ない。

その3ヶ月という日々は6歳の子供には永遠に等しい期間に感じる。

リビングのソファーには、いつもならお父さんがタバコを咥えて座ってる。

その足元が私の指定席。

そこから動けと言うお母さんを鬼に感じる。

ふと、私の前から玩具が消えた。


「お前ってアホなんか?返事くらいせえや。」


さっきまでテーブルに居た男の子が私の玩具を取り上げて私を見下ろしていた。


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