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姦譎の華
第6章 6
 稲田は懸命に瞼を開いたが、真下からだと優美な白地の連峰に視界を遮られ、尊顔を拝することはできなかった。しかも著しく美観を損なう無骨な手が、山麓へと迫っていた。

「お……」

 ついに、島尾はバストへと触れた。

 直前までは豪快に揉みしだいてやると意気込んでいたのに、いざその時を迎えると、いまさらになって現実のものかを確かめるべく、下から手を添わせておそるおそると持ち上げただけだった。カップに隙間なく詰まった重みが猜疑を明快に晴らしてくる。更に持ち上げてみると、ふくらみはシャツごと歪み、指腹へ返される圧が増す。

「すっ、すごいオッパイだな……、おい」

 湿った息で囁きかけても、女は何も言わず、沈黙を保っていた。より良い感触を得ようと後方へ引き寄せようとすると、ヒールを踏んで拒まれる。しかしこちらが前に進めば、結果は同じことだった。

「へっ、へへ……、お、俺は、ドッ、ドSだからなあ。かっ、覚悟、しろよお……」

 言葉を発するたび、途中で詰まった。語彙の倉庫から女を辱める言葉を探しても、尊貴に振る舞う美貌の秘書を貶めるのに十分な棚は揃っていなかった。なおかつ両の手のひらは待望の肉実に触れておきながら、いまだ情けないほどに畏まっている。

(くそ……)

 責めるべきは己の底の浅さだったが、島尾の中で、羞恥は女という生き物への恨みへと収斂していった。

 オッパイパブや風俗で、嬢の胸に触れたくて金を落としてきたことが悔やまれる。若ければ若いほど、揉み心地は良いと考えていた。だから彼女たちのプロフィールを眺める時は、まずは胸の大きさ、そして年齢の十の位を確かめてきた。

 けれどもこの女の胸乳に触れていると、全てが子供騙しだったと後悔される。素晴らしい張りだと喜んできた感触は、まだ色付いてもいない、堅い果実を旨い旨いと齧っているようなものだったのだ。

 持ち上げた手を内回りさせてみる。一歩遅れるような柔らかさがもたらされ、半周すぎたあたりからは逆に元の位置に戻ろうとする力に促された。もう一周、次は親指を押し込み、残りの四指と挟むようにしてみると、

「……ん」

 小さな呻きが聞こえてきた。恫喝とは打って変わって、かすかに鼻にかかっていた。
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