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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第3章 器用さの問題

「どう?」
「素晴らしくお似合いですわ」
「完璧にお美しいです」

 身支度を整え終えて侍女に聞くと、いつもの様に口々に誉め讃えられました。

「ありがとう。下がって良いわ」

 ローゼルが頷くと、侍女達はお辞儀をして退出しました。一人になったローゼルは、どこかおかしいところは無いかどうか、鏡の中の自分をもう一度検分しました。
 オレンジを基調としたドレスは、侍女達の言った通り自分の美しさをとても良く引き立たせている様に思えます。髪や目や肌の色にも映りが良く、最近少し元気の無い自分を、明るく見せてくれる様でした。

 オレンジは、ローゼルが良く纏う色の一つでした。
 ビスカスが刺された日のドレスもオレンジだったので、今日着るかどうか少し迷ったのですが、そのビスカスがローゼルがオレンジ色の服を纏うのを好んで、良く誉めてくれていたのです。
 ビスカスはローゼルが何を着てもーーまるで小麦袋に見える様な粗末な麻の服を着ていても、常に心から賞賛してくれました。けれど、オレンジの服を着ている時は、誉める口調は同じでも特ににこにこと嬉しそうにしていました。時々口元を緩めて眩しそうに眺めていたりしていましたし、「旨そう過ぎて食べちまいたい程お似合いですねー」等とふざけた感想を口にして、ローゼルに罵られる事もよく有りました。

(今日は、お見合いなんだもの。一番似合う服を着るのは、当然よ)

 今日は従兄弟のリアンが見合いの為に、館にやって来る日です。人見知りのローゼルの為にリアンはしばらく館に滞在し、伴侶としてお互いが相応しいかどうか、可能な限り時間をかけて考えさせてくれる事になっておりました。
 リアンに会うのは、久し振りでした。小さい頃からローゼルをお姉ちゃんと呼んで慕ってくれる従兄弟でしたが、母方の親戚である為、母が亡くなって義母が家に入ってからは会う機会が減っておりました。
 そんな事を考えていた鏡の中のローゼルは、僅かに眉を寄せて頬を染めました。

(……ビスカスの為に着た訳じゃ、無いんだから)

 今日は、見合いの始まる日です。
 そして、ビスカスの傷が動ける程度に良くなって、館に戻って来る日でも有りました。
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