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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第3章 器用さの問題
「ロゼ?」
「はい、リアン」
「口づけしても、良いよね?」
「え」

 ローゼルは、急な事にびっくりし過ぎて返事が出来ませんでした。
 返事が出来ない内に顔が近付いて来たと思ったところで扉が叩かれる音がして、口づけは寸前で中断されました。
 ローゼルから離れたリアンは軽く舌打ちすると、どうぞ、と外に呼び掛けました。

「失礼致します。お茶をお持ち致しました」

(ビスカスっ!?)

「お前……」

 リアンはローゼルの手を握り締めたまま、お茶のワゴンを運んで来たビスカスを見て嫌な顔をしました。

「姉さんの護衛だったよね?僕と姉さん二人だけなのに、護衛が必要って訳?」
「滅相も御座いません。現在、お嬢様の護衛の任は解かれております」
「え?」

 ローゼルはビスカスの言葉に驚いてそちらを見ましたが、見た途端に、驚愕のあまり聞いた言葉を忘れ去りました。
 ビスカスが、お茶を淹れようとしていたのです。

(危ないわよ、ビスカス!!おやめなさいっ!!)

 普通でしたら、お茶を運んで来たのですから、注いで出すのは当然です。けれどビスカスは、道具を使う作業はどれでも、何故か大変不得手でした。例えば、この地の男子の嗜みである果物細工などは、見られたものではありません。どうやったらそんな血みどろでズタズタの悲惨な物が出来るのか、サクナに驚かれる程でした。

「先日怪我を致しまして、しばらく別の仕事をするようにと旦那様に申し付かりました。お嬢様付きを離れますので、お目にかかる事は少なくなると存じます。ですので、今の内にリアン様にご挨拶をしておくように、と」

(お父様ったら、どうして選りに選ってビスカスにお茶を運ばせたのよ!!挨拶なんて、違う仕事の時にさせたら良いじゃない!!)

「ふうん、そう」

(ああもう見てられない、何なのその持ち方っ……普通はそんな持ち方する方が難しいわよ、この馬鹿っ!)

 ビスカスが変な角度の危なっかしい手付きでポットを扱いお茶を注ぎ始めるのを見て、ローゼルはやきもきしました。まだ怪我が完全に治って居ないのに、火傷や怪我が追加されたらどうするのでしょう。

「お前、以前僕の事、すごい目で追い払ったよね?」
「……お小さい頃、お嬢様に悪戯を仕掛けられた時の事で御座いますか?」

 二人の会話が交わされながらお茶が入る間、ローゼルははらはらし通しでした。
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